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イタリアにはイタリア人のサッカーがあり、イギリスにはイギリス人のサッカーがあり、スペインにはスペイン人のサッカーがある。同じルールに基づいた同じスポーツでも国によってスタイルが違うのだから面白い。ただ、そういった違いは歴史上さまざまな憎しみを産んできたに違いない。
カナダの大学は3学期制で、9月からの秋学期、1月からの冬学期、そして5月からの夏学期から構成されている。フットサルのリーグ戦はその3つある学期ごとをそれぞれシーズンとして開催される。毎週月曜日の夜8時から10時までくたびれた学生が大学の体育館に集まり、激しくフットサルの試合をする。祖国である程度許されるフィジカルコンタクトの基準を覚えた選手たちが各国から集まって一緒にサッカーをする。自国だとファールになると思っても、審判が流せばプレーは続行される。ラフプレーにはラフプレーで対応するしかない。そうしてフットサルは激しくなっていく。
ヨーロッパ、アジア、南米、アフリカ、と世界中から集まった留学生の中で、とりわけラフなプレーが多いのはイタリア人とイギリス人だ。イタリア人たちは人混みをかけ分けるようにディフェンスを手で押し倒しながらドリブルをし、イギリス人たちはパスを出した後のボールを持っていない選手の足を蹴飛ばすことまでがディフェンスの一環であると信じ込んでいる。逆にスペイン人やベネズエラ人、モロッコ人は華麗な技術を見せつけることを目的としてプレーしているように見える。ベネズエラはブラジルに、モロッコはスペインに影響を受けているのかもしれない。セリエAやプレミアはリーガエスパニョーラよりもラフプレーが多いのかもしれない。
当然のように各国それぞれのラフなプレーが別のラフなプレーを生み、怒号とホイッスルが飛び交う。それぞれが自らのプレーの正義を叫び、審判にアピールする。フランス人は爪を割られ、モロッコ人は足首を捻挫した。イギリス人が率いていたチームは1ヶ月経った頃にリーグ戦から去っていった。ふと自分は日本人であるという看板を背負っていることを思い出した。
フットサルで学んだのは暗い面ばかりではない。厳しいタックルを繰り返していたメキシコ人が試合後に僕に近寄って来て、「さっきはごめんよ、ついカッとなってしまったんだ」と握手を求めて来た。もちろん僕は許した。「いいさ、それがサッカーだ」
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